この組織は2つの特徴を持つ。
1つは,Mersey川流域全体を対象としているという点にある。従来の地域計画が,(Metropolitan) CountyやBorough, Districtなどの行政区域を単位としているのに対し,本キャンペーンは,河川流域を地域単位としているところに特徴がある。
本キャンペーンの対象地域は,Mersey川流域である。流域面積は4,680km,流路延長約2,000km,流域人口約500万人を擁する,英国最大級の河川のひとつである。
第2は,官・民・ボランティアの種々の組織によるパートナーシップ方式をとっていることである。個人・地方自治体・民間企業・寄付・中央政府などの出資によって運営されており,マージ川流域キャンペーン管理会社(Mersey Basin Campaign Administration Ltd.),マージ川流域トラスト(Mersey Basin Trust),マージ川流域企業基金(Mersey Basin Business Foundation)の3つの組織が中核となっている。これらの中で企業基金が同キャンペーンの主要資金源となっており,ICI,シェル,ユニリーバのような石油,化学,水道,運輸,銀行などが主要メンバーとなっている。
失業者を組織したボランティアによって浄化した旧運河。 | アンダートン・ボートリフト。産業革命時代の運河リフトを再建している。 |
同キャンペーンにおける活動は,主として,RVIs(River Valley Initiatives)によって行われる。これは,地方行政区(Local
Authority)間のパートナーシップにより,各支流を単位として組織されている(Wood et. al.,1997)。
現在は,主な活動として,水質浄化を主として,その他,河川景観の整備や,環境教育活動,さらには,河川に関する産業遺跡の修復などを行っている。
マージー川三角江浄化事業の記録写真。かつて化学工場が立地し、有害廃液で埋もれていたが、土壌をすっかり入れ替えて浄化した。 | 浄化された三角江付近。 |
水質浄化は,同キャンペーンにおけ る最も重要な事業であり,2010年までにすべての河川において魚が住めるようになるまで水質を改良していくことを目標としている。1996年までに約70%を達成している。河川浄化のしるしとして,カワセミやトンボの数を集計している。また,Mersey川三角江の浄化にも取り組んでいる。
河岸の再生事業については,種々の補助金により,都市開発会社によるマンチェスター中心部の再開発特に水辺の整備,たとえばマンチェスター運河や,サルフォードにある埠頭跡などの,都市や港湾の再開発や,放棄地の再利用が行われている。
また,教育活動に関しては,水の監視員や,「水の探偵」などを組織して,地元住民の関心を高めようとしている。
再生された埠頭と他目的ホール(ザ・ローリー) | ザ・ローリーの協賛企業 |
鉄道跡を利用した遊歩道、トランス・ペナイン・トレイル。隣はマージー川。 | トランス・ペナイン・トレイルの協賛企業。 |
まず,Mersey Basin Campaignは,河川の浄化等を目的とする団体であるが,パートナーシップ方式(官庁,民間企業,地方自治体等の連携による)をとっていること,また,河川の流域を対象地域とすることに特徴がある。したがって,形式上はこの団体は民間団体であるが,実質的には,国の官庁並みの権限を持っている。しかし,資金的には,民間資金によるところが大である。
第2に,同キャンペーンは,河川流域を活動単位としている,英国では唯一といっていいほどの数少ない団体の一つである。特にイングランドでは土地の起伏が少なく,流域意識が希薄であると考えられる。同キャンペーンが,水質浄化を目的とするため,流域と結びついていると考えられる。
第3に,本団体が,2010年を採集とする時限付きのものであることである。河川の浄化に関しては,このキャンペーンの前半において,約70%の達成率を遂げたものの,2010年以降の対応が問題となっている。