(背景)
グラウンドワークは、1980年代から、イギリスの特に旧産炭地において、地域を構成する住民と行政と企業の三者がパートナーシップを組みながら、地域の環境改善を目的に活動する運動として始められた。
今回は、都市近郊事例として最初に活動が開始されたマンチェスター郊外のセントヘレンズと、田園地域事例として本報告のテーマであるウエストカンブリアを調査対象とした。
グラウンドワーク運動は、その本部をバーミンガムにおき、本部が大企業や政府からの資金を各地域の経営団体であるトラストに分配する機能を持っている。しかしながら、実際の活動は、各地域のトラストが、地域内のスポンサーである行政や企業から推薦されたメンバーを中心に構成される独自の理事会を持ち、活動を決定している。トラストは有限責任会社として営利活動を行うとともに、チャリティー団体としても登録されており、ボランティア活動の調整を行っている。
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湖水地方のナショナルトラスト所有地 の風景。 |
所有地内に置かれているナショナルトラストの募金箱。 |
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湖水地方のナショナルトラスト所有地。
ベアトリクス・ポターのリスのナトキン
物語に出てくる場面と同じ風景。 |
ナショナルトラスト所有地であることを表す立て札。 |
(調査概要)
ウエストカンブリアはイングランド北部に位置し、ピーターラビットの物語でも有名な田園風景の広がる地域である。このような、田園風景の保全には、国立公園制度のほか、会員数において英国最大の自然保護・史跡保全団体として知られるナショナルトラストの役割が大きい。このナショナルトラストの設立に当たっても、ウエストカンブリア・湖水地方は大きな役割を担った。
ウエストカンブリア・グラウンドワ−クトラストは同地方の西部、歴史的には鉄鉱石、石炭、石灰等を産出したクレーター・ムーアという町にその事務所を置き、湖水地方ケズイックまでをカバーする約1,300平方キロメートルを活動範囲としている。トラストは、1986年に設立された。現在、活動の規模は約230万ポンドで、後に述べる営利部門を除いて12名の有給スタッフが雇用されている。
(写真:右)ウエストカンブリア・グラウンドワ−クトラスト事務所。緑の三角形がトラストのマーク。
以下に実際の事業を簡潔に紹介する。
- コミュニティーパークの設置
ブリティッシュコールが地域貢献の一環として地域(パリッシュ)に寄付した土地にコミュニティーパークの建設を行ったり、鉱山跡を運動場にしたりする公園整備を行っている。いずれの場合も、自治体に資金負担能力がなく、トラストが資金集めをし、地域住民とデザインの協議を行って建設を行っている。壁画作成に地域の小学生などの参加が行われている。設置後の管理は、地域住民の代表による委員会が行っている。ただ、管理作業そのものに地域住民の参加は全く行われていなく、除草・清掃等が必要な場合は、トラストが資金を協力し、業者に委託している。
- サイクルウエイの整備
英国では、鉄道の廃線跡を自転車専用道にすることが広く行われている。湖水地方では、1960年代までスコットランドに向かう本線からケズイックを経てコカマスまでの鉄道が営業していた。その敷地をグラウンドワークトラストが、サイクルウエイとして整備しており、産業遺跡の散策とサイクリングが楽しめるようにしている。なお、土地所有者は不明であった。
- 失業者対策
旧産炭地であり、現在失業率が高くなっている中で、政府の失業対策(ニューディール)の資金を利用した職業訓練を行い、彫刻の技術者を養成している。養成された技術者は、トラストの営利部門として、地域の岩石を利用した彫刻を生産し販売している。
(今後の研究の方向)
- グラウンドワークの事業はわが国へも紹介されており、福岡県においてもモデル事業が開始されている。トラスト組織が社会に認知されているとはいいがたいわが国において、トラスト組織が地域の環境改善に資する組織体系としてどこまで受け容れられるか、またそのためにはどのような形態の修正が必要かについて検討したい。
- 今回の調査では、トラストの自主性及びトラスト自体が行う営利事業についてはくわしく理解出来たが、地域住民の参画の仕組みや意識については不明であった。さらなる具体例を、文献等を中心に検討したい。あわせて、地域企業の参画についても調査を深める必要がある。
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低所得地域のコミュニティ・パークの 看板。 |
コミュニティ・パークの風景。 |
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旧炭坑後に作った公園。後方の壁画を 地元小学生が書いた。 |
おみやげに石炭鉱で作られた彫刻をいただいた。 |