大牟田・荒尾のまちづくり市民事業視察


 2007年12月8日(土) 久留米大学経済学部公開講義「市民参加のまちづくり」番外編として、久留米大学比較文化研究所から予算をいただいて、大牟田・荒尾の市民事業によるまちづくりの視察にいってまいりました。
 冷たい風の吹く寒い朝、一般市民のかた二名、学生三名、私松尾匡と愚息の七名で、マイクロバスに乗って久留米大学を出発しました。
 大牟田道の駅で一日ご案内下さる日本労働者協同組合センター事業団福岡エリア筑後地区の濱崎さん武元さんと合流、まず、荒尾の万田坑に向かいました。

【万田坑見学】
 万田坑は、三井三池炭鉱の竪坑で、明治時代に三池が総力をあげて開いた我が国再大規模の竪坑です。現在その史跡は、近代化遺産として、国の重要文化財に指定されています。
 平成12年に、「万田坑の魅力を伝え、全国に発信する」ことを目的にした「万田坑ファン倶楽部」が結成され、元炭鉱マンの人達を中心に、現地ガイド、坑内に残る機械類の保守整備、資料の収集に取り組んでいます。
 私達は、「万田炭鉱館」で、やはり一日ご案内下さったNPO法人「大牟田・荒尾炭鉱のまちファンクラブ 」理事の永吉守さん(ウェブ上で見つけたご本人のインタビュー動画)と合流、「万田坑ファン倶楽部」の黒山会長のガイドで、万田坑跡を見学しました。


万田炭鉱館の前


万田坑跡の入り口。奥にヤグラが見える。

 まず手前の建物に入り、炭鉱マンを昇降させるワイヤーや巻き上げ機とその操作場を見学しました。当時の様子そのままで、迫力満点でした。

左端が黒山会長。万田坑で働いていた元炭鉱マンである。もうすぐ80歳だというのに、急な階段を高い所まで雑作なく案内してくれた。

 次にヘルメットにつける安全燈を置く部屋や浴室跡を見学したあと、坑口跡を見ました。274mの深さがあったそうですが、現在は埋められています。

坑口へ向かう通路。奥が坑口。手前は鉱夫達を運んでいたエレベータのかご。

 そのあと、選炭場跡を見て見学を終わりました。炭鉱館までもどる道ぞいには、昔職員の社宅があったそうで、そこでも炭鉱夫と事務職員では待遇に差があったと黒山会長は話していらっしゃいました。

 そして炭鉱館で資料を見学して、次に向かいました。

【「海の風」見学】
 次は、ご案内下さった武元さんが代表を務める地域福祉事業所「海の風」の事務所を見学しました。


「海の風」事務所

 「海の風」はヘルパーや訪問介護事業を行っている福祉事業所です。介護保険事業をやっていますが、介護保険以外の自費の部分も、一時間1000円とか3000円とかで請け負っています。利用者は60名くらい。独居のかたが多いということです。
 介護保険開始直前に立ち上がった事業から独立して6年目、年間3千万円弱の事業高になっています。
 この事業所の特徴は、「労働者協同組合」と称し、従業員が全員で経営に参画すること。常勤5名、登録ヘルパー17名の総数22名の体制ですが、何かひとつ買うにも、基本的にはみんなで決めるというのが方針。月一回のヘルパー会議でみんなが集まって決めるそうです。現実には14名ぐらいの参加者で、このごろ、みんなが意見を活発に言うようになったということです。
 最近は、作業部会を六つ作って、そこでそれぞれ責任を持って事業を進めていこうということになっているということです。

【有明立坑櫓見学】
 三池炭鉱有明立坑櫓は、有明海の干拓地に立つ二本の坑櫓で、それぞれ517m、361mの深さの坑口にケージを降ろしていました。有明坑は、1984年の坑内火災の悲劇の舞台でもあり、また、1997年の閉山のとき最後の炭鉱マンが上がってきた場としても歴史に残っています。台形とZ型の二つの異なった櫓が同時に残っているのは世界でも珍しいということもあり、「大牟田・荒尾炭鉱のまちファンクラブ 」の人達などが保存運動をしてきましたが、取り壊される公算が大とのことです。この日は、最初で最後になるかもしれない一般開放の機会ということで見に行きましたが、だだっ広い干拓地に吹き渡る風がとても寒かったです。

【三井鉱正門跡から港倶楽部】
 次に、三井三池炭鉱を経営していた会社の正門前へ。争議で労働者達が押し寄せた現場でもあります。でっかい監視カメラが印象的でした。
 そして、三池港に寄って、明治時代の団琢磨による築港の解説を受けました。有明海の干満差を解消して石炭の荷役ができるよう設けられた閘門が見えました。
 最後に「港倶楽部」に行きました。
港倶楽部ウェブサイト
 これは、明治時代のとても美しい洋館で、三井財閥が外国の高級船員を接待するときなどに迎賓館として使ったものです。閉山後、永吉さん達のNPOはじめ、市民の間で保存運動が起き、三井と地元財界の出資などによって、レストラン・結婚式場として存続できました。
 残念ながら、パーティが入っていて、中には入れませんでした。寒い屋外で、きれいな庭園を臨みながら、永吉さんに、近代化遺産を使ったまちづくりについて今後の展望をうかがいました。お金もうけは目的ではなく、コミュニティの醸成が目的だが、事業が持続するには収入が必要だし、このまちについて広く知ってもらいたい。ちょっとうまく結び付ければ、もっと多くの人に来てもらえる魅力はあるはず。今の百倍にはできないしするつもりはないが、今の十倍にはしたい。というような話になったように記憶しています。

 寒い中、ずっとご解説いただいた永吉さん、親切にご案内いただいた濱崎さん、武元さんはじめ、黒山会長、「海の風」のみなさんに深く感謝します。ご参加いただいたみなさんもありがとうございました。