産業経済研究要約

スイスにおけるカントン内財政調整制度−カントン・チューリッヒの場合− 世利 洋介
  スイスにおける州内財政調整制度、特にカントン・チューリヒの「課税力調整」制度についてその基本的な仕組みと問題点について明らかにした。当該制度は、市町村の自治権・税率決定権が保障されていること、小規模自治体が多数を占めること、主要な経費額が一人当たりで住民数に関して概ねU字型の形状を成していること、チューリヒ市が文化・福祉面での高い財政負担を担っていること、という背景の下で展開されている(T)。課税力調整は、市町村間の水平的手段として、直接的調整効果を狙ったもので、「相対的課税力」(住民一人当たりの財源)を基準とした交付と原資の拠出という仕組みになっている。交付にあたっては、経費構造(住民一人当たりの経費額が人口規模に関してU字型)を考慮したスカラーを活用した調整を図っているが、調整前後で相対的課税力に関する逆転現象が市町村間で生じる等の問題を有している(U)。調整効果は概ね発揮しているが、時系列でみて、税率格差あるいは相対的課税力の格差の拡大を抑制できていないという問題を有している(V)。

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